日本では、2007年に子宮内避妊具として認可された「子宮内黄体ホルモン放出システム(以下、IUS)」ですが、2014年には月経困難症及び過多月経の治療薬として承認され、保険適応となりました。毎日の服用が必要な低用量ピルや経口黄体ホルモン製剤との大きな違いは、IUSを子宮内に装着すると5年間にわたり安定した治療効果が維持されることです。
IUSは黄体ホルモンが付加された柔らかいプラスチック製の器具で、子宮内に挿入、留置します。黄体ホルモンは、ゆっくり持続性に子宮内に放出されますが、それは子宮内膜(受精卵着床のベット)の増殖を抑え、菲薄化させる作用があり、月経量を80%以上減少させるとともに、月経痛も緩和されます。
同時に、受精卵の子宮内膜への着床や、精子の子宮内への侵入を防ぐことで高い避妊効果を発揮します。避妊法の妊娠率(女性100人の1年間の失敗率)は、IUS(0.2%)、低用量ピル(0.3%)、銅付加子宮内避妊具(0.6%)と報告されています。
IUSは出産経験がある女性に適しています。月経血が多く貧血のある方や、強い月経痛がある方の治療に用いられます。
また、長期の避妊を希望している方や、低用量ピルの服用禁忌の方などにも適していますが、避妊目的の使用には保険は適応されません。産後の装着は、母乳及び子宮への影響を考慮し、断乳後かつ月経の再開以降が安全です。
一方、子宮がん・性感染症の疑いがある、子宮腔の変形を伴う子宮筋腫・子宮腺筋症を認める、骨盤内炎症性疾患・子宮外妊娠の既往がある、子宮内避妊具装着時に強い痛みや不調を感じたことがある、などの女性は使用できない場合があります。
IUSを装着する前に、子宮がん検診及び性感染症検査を行い、超音波検査で子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜症などの疾患及び妊娠の有無を調べ、IUSが安全に使用できることを確認します。子宮の形状によっては、IUSが挿入できないこともあります。
通常、月経開始7日以内に装着します。装着は数分程度で終了しますが、月経痛のような痛みや軽いめまいなどが起こることがあります。特に症状がない場合でも、診察台でそのまま15分程度安静を保ち、異常のない事を確認してからの帰宅となります。
IUSを安全に使用するために定期検診はとても重要です。IUSを装着してから1週間後に診察を行い、出血・腹痛の有無、IUSが子宮腔の正しい場所に装着されていることを確認します。その後、装着の1か月後、3か月後、6か月後、1年後、それ以降は状況に応じ年1回以上の検診が推奨されています。また、IUS装着後は5年以内の交換・除去が必要です。
IUSの装着後数か月は、月経時期以外に出血が続くことがありますが徐々に減少します。また、月経血は次第に減少し月経期間も短くなります。月経の回数も減り、1年後には20%に月経が起こらなくなります。
IUS装着中の無月経は黄体ホルモンの作用ですが、まれに妊娠や閉経の可能性もあります。いつもより強い月経痛や腹痛、出血量が多い、出血期間が7日を超える場合などは、IUSの位置のずれや脱出の可能性もあり、診察が必要です。
IUSの脱出は装着者の10%に認め、装着後3か月以内に多く、いつもと違う月経様の出血と痛みを伴います。IUSの位置がずれた場合、出血が8日以上持続することがあります。また、まれにIUSの子宮筋層への穿孔(0.3%)、骨盤内炎症性疾患(0.5%)及び子宮外妊娠(頻度不明)が報告されています。
IUSの装着により、子宮筋腫や子宮腺筋症による過多月経や月経困難症が改善し、年齢を問わず安全・確実な避妊効果が得られます。また、IUSの装着中に更年期障害が出現した場合、卵胞ホルモンのみを補充することで、妊娠の心配がないホルモン補充療法に移行が可能です。女性にとって有用なツールと言えるIUSですが、安全かつ適正に使用するために装着前検査及び装着後の定期検診が重要です。