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月経以外に出血があったら?

【初めに】

婦人科を受診される理由で、頻度が高いものの一つに不正子宮出血があります。特に、思春期と更年期の女性に多く、「月経が終わったのにまた出血が始まり、なかなか止まりません。」と言う訴えで受診されます。不正子宮出血とは月経以外の子宮から出血を指しますが、妊娠に関連した出血を除くと、粘膜下筋腫、子宮内膜ポリープ、及び子宮体癌などが原因となるもの(器質性子宮出血)、子宮に明らかな病気がないもの(機能性子宮出血)に分類されます。
今回は、機能性子宮出血についてお話します。 

 

●月経が起こる仕組みを教えてください

月経は、約1か月間隔で起こる子宮からの周期的な出血で、3~7日間で自然に止血します。それをコントロールしているのは、脳から分泌されるホルモン(性腺刺激ホルモン放出ホルモン、卵胞刺激ホルモン及び黄体化ホルモン)と卵巣から分泌される女性ホルモン(卵胞ホルモンと黄体ホルモン)です。脳から分泌される卵胞刺激ホルモンは卵巣の中の卵胞に働き、卵胞ホルモンが作られ、卵子が成熟します。十分に卵胞が発育すると、脳から黄体化ホルモンが分泌され、排卵が起こります。排卵後の卵胞からは大量の女性ホルモンが分泌され、子宮内膜(受精卵が着床するベット)は受精卵が着床しやすい環境に変化します。妊娠が成立しない場合、子宮内膜は剥離して出血と共に子宮外に排出されます。つまり、「脳と卵巣及び子宮は互いに連携して毎月妊娠の準備をしていますが、今月は妊娠しませんでした。」という結果が月経です。

 

●機能性子宮出血とはどのような出血ですか?

機能性子宮出血とは、「子宮に明らかな病気がないのに起こる、月経、妊娠以外の出血」を言います。多くの場合、脳や卵巣から分泌されるホルモンの乱れが原因ですが、血液や肝疾患、及び薬物が原因のこともあります。

「月経が起こる仕組み」でお話したように、脳と卵巣及び子宮は連携して毎月妊娠の準備をしています。脳と卵巣及び子宮の間にはそれぞれ歯車があり、その連携が上手くいかなくなると、結果として卵巣から分泌される女性ホルモンの分泌に乱れが生じ、子宮内膜が部分的に剝がれることで出血が起こります。

 

●機能性子宮出血はどのように分類されますか?

機能性子宮出血には、女性ホルモン分泌の乱れ、排卵の有無及び年齢による分類がありますが、ここでは年齢による分類について説明します。

1.思春期出血:初経が始まる少し前から、脳から卵巣に向けてホルモン(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)が分泌されますが、しばらくの間はリズミカルな分泌が行われません。このため、卵巣では排卵が起こらず、女性ホルモンの分泌も不安定となり、子宮内膜から出血が起こります。思春期の機能性出血の大部分はこの無排卵のため起こり、だらだらと持続することが多く、しばしば貧血の原因になります。

2.性成熟期出血:思春期や更年期に比べ頻度は低く、大部分は排卵に関連する出血です。なかでも、月経と月経の中間に見られる排卵期(中間期)出血は女性ホルモンの変動が原因で、量も少なく数日で終わり、臨床的には心配のない出血です。

3.更年期出血:45歳から55歳の間を更年期と言い、平均51歳前後で閉経を迎えます。この時期は、無排卵の頻度が高くなります。1か月に何度も出血がおきたり、数カ月間出血がなかった後に大量の出血が持続することもあります。高度の貧血を来している女性を少なからず見受けます。また、子宮体癌が隠れている可能性があること、無排卵は将来の子宮体癌発生の原因になることにも配慮が必要です。

4.老年期出血:肥満の方では、脂肪組織から分泌される女性ホルモンの影響で機能性出血が起こることがあります。ここでも、子宮体癌を見逃さないことが大切です。

 

●機能性子宮出血はどのように診断されますか?

機能性子宮出血は、月経、妊娠及び器質性疾患(粘膜下筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮体癌など)を除外することで診断されます。

問診では、出血の部位・量・時期・期間、痛みの有無、既往歴・家族歴を詳細に聴取します。これらを念頭に婦人科的診察を行います。子宮頸部・内膜の細胞診及び組織診、超音波検査、さらに血液検査(妊娠反応、ホルモン検査、血球数算定など)及びMRI検査で診断します。妊娠、悪性腫瘍、及び薬物の服用などが原因の出血を見逃さないことが重要です。

 

●機能性子宮出血の治療について教えてください

止血剤で止血することもありますが、ホルモン療法が基本となります。
思春期の機能性出血は、月経周期の発達過程で起こる無排卵が主な原因です。出血量が少なく貧血がない場合は、止血剤で経過を見ることが可能です。出血期間が長引き、日常生活に支障を来したり貧血を認める場合は、黄体ホルモン剤を使用します。止血しない場合は、卵胞ホルモンと黄体ホルモンの両方を用います。止血後は、3周期ほど服用を継続して月経周期を整えます。身長の伸びが停止していない場合でも、短期間、低用量の卵胞ホルモン剤の使用は可能です。

性成熟期の機能性出血は、多くは排卵期出血で、出血量も少なく治療の必要はありません。無排卵性出血では、卵胞ホルモン剤と黄体ホルモン剤で月経周期を整えます。挙児希望がある場合は、周期を整えた後、排卵誘発剤を使用します。

更年期の機能性出血は、思春期同様、無排卵が主な原因です。排卵が起こらず黄体ホルモンが作られない状態が続くと、卵胞ホルモンだけが子宮内膜に長期間作用することで子宮内膜は肥厚し、そこからだらだらと出血が持続します。黄体ホルモン剤と止血剤の併用で止血を試みますが、治療効果には個人差があり、数周期で治癒する場合もありますが長期の治療を要する事もあります。多くは貧血を合併しており、鉄剤の投与も行います。また、ホットフラッシュ、発汗などの更年期症状を合併している場合は、黄体ホルモン剤に卵胞ホルモン剤を加えたホルモン補充療法を行います。ホルモン剤で止血困難な症例では、子宮内膜の搔爬も行われます。更年期の子宮出血に対しては、子宮体癌の可能性を常に念頭に置いて治療を行い、ホルモン剤の使用にあたっては、喫煙、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症及び心血管障害などに注意を払うと同時に、乳癌検診が必要です。

 

●最後に

今回は、婦人科を受診される理由のなかでも頻度が高い機能性子宮出血についてお話しました。機能性子宮出血は、生活の質を低下させるとともに貧血の原因になります。また、妊娠関連の出血や、粘膜下筋腫、子宮内膜ポリープ、及び子宮体癌などの器質的疾患が隠れている可能性もあります。8日以上持続する出血は、婦人科受診のサインと捉えて下さい。

 

  ドクター