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月経以外に性感染症とプレコンセプション・ヘルス・ケア出血性感染症とプレコンセプション・ヘルス・ケアがあったら?

【初めに】

2013年6月から積極的勧奨の差し控えとなっていたヒトパピローマウイルス感染症予防ワクチン(以下、HPVワクチン)ですが、接種による有効性が副反応のリスクを明らかに上回るとことが認められました。これを受け、2022年4月よりHPVワクチンの定期接種の個別勧奨が再開となり、市町村から標準的接種対象者(中学1年生から高校1年相当)に予診票及び情報提供資材(リーフレット)の送付が行われています。
一方、HPVワクチンの積極的な勧奨差し控えにより、接種機会を逃した方に対して公平な接種機会を確保する観点から、時限的に、定期接種の特例として、定期接種の年齢を超えての接種(キャッチアップ接種と言います)が公費で提供されることになりました。

 

●婦人科外来で多い性感染症は?

令和4年4月1日から令和7年3月31日までの3年間、平成9年度生まれから平成17年度生まれ(誕生日が1997年4月2日から2006年4月1日)の女性で、過去にHPVワクチンを合計3回受けていない方が対象です。
また、キャッチアップ接種の期間中に定期接種の対象から新たに外れる世代についても順次キャッチアップ接種の対象となります。平成18年度生まれの女子は令和5・6年の2年間、平成19年度生まれの女子は令和6年度の1年間のみが対象となります。
なお、予防接種法上、保護者の同意が必要となるのは16歳未満の者であるため、キャッチアップ接種の対象者は保護者の同意は不要となります。

 

●それぞれの性感染症の症状と診断は?

接種を希望される場合、あらかじめ市内指定(協力)医療機関に電話でお問い合わせください。なお、基礎疾患(心臓血管系疾患、腎臓疾患、肝臓疾患、血液疾患など)のある方、過去のワクチン接種後にアレルギー症状、発熱、原因不明の痛み・運動障害などの既往がある方などは、接種ができないことがあります。また、当日に発熱などの体調不良を認める場合、接種を見送ることがあります。なお、新型コロナワクチンとの接種間隔は2週間以上とされています。前もってリーフレットを熟読し、当日は予診票、母子健康手帳、健康保険証をご持参ください。料金は無料です。 

 

●性感染症の最近の話題は?

HPVワクチンが子宮病変(子宮頸がん及びその前がん病変)を予防する効果は、16歳頃までの接種で最も有効性が高いとされていますが、20歳頃までの初回接種まではある程度有効性が保たれることが報告されています。性交経験による高リスク型ヒトパピローマウイルス感染によって、HPVワクチンの予防効果の減少が示されていますが、無くなってしまうわけではありません。 

 

●プレコンセプション・ヘルス・ケアという言葉をご存じですか?

1回接種した方は残り2回、2回接種した方は残り1回を公費で接種を受ける事ができます。また、過去にHPVワクチン接種から時間が経過している場合でも、接種を初回からやり直す必要はなく、残りの回数を行います。なお、HPVワクチンは同一種類のワクチンを用いての3回接種が原則です。

 

●性感染症の治療目的はプレコンセプション・ヘルス・ケアです!

子宮頸がんの前がん病変および子宮頸がんの診断を受けている場合、HPVワクチンの接種は必要ありません。また、HPVワクチンを接種する際、高リスク型ヒトパピローマウイルスの感染の有無を調べる必要はありません。

 

●最後に

HPVワクチンの積極的勧奨の差し控えにより定期接種の機会を逃してしまい、接種を自費で受けた方に対して、市から費用の助成(償還払い)があります。詳しくは、市のホームページをご覧ください。

 

●最後に

HPVワクチンの接種後に見られた、持続する痛み(慢性疼痛)及び手足の動かしにくさ(運動機能障害)などの「多様な症状」がワクチンによる副反応疑いと報告されたことにより、9年間に渡りHPVワクチンの積極的勧奨が差し控えとなっていました。この「多様な症状」は、画像検査や血液検査などでその身体症状に合致する異常が見つからない状態である「機能性身体症状」と考えられています。
その後の様々な調査研究では、「HPVワクチン接種後の局所の疼痛や不安等が機能性身体症状を起こすきっかけとなったことは否定できないが、接種後1か月以上経過してから発症している人は、接種との因果関係を疑う根拠に乏しい」と評価されています。また、HPVワクチンの接種歴がない方においても、HPVワクチンの接種後に報告されている症状と同様の「多様な症状」を有する方が一定数存在したことが明らかになっています。このように、「多様な症状」がHPVワクチン接種の副反応(因果関係がある)であるという証明はされていません。

 

●最後に

接種後に体調の変化や気になる症状を自覚した場合、まずは接種を受けた医療機関の医師にご相談下さい。精査・治療が必要な場合、協力医療機関(札幌医科大学附属病院 整形外来・リハビリテーション科、北海道大学病院 HPVワクチン副反応支援センター)をご紹介します。
極めて稀ではありますが、接種後の健康被害が起きた場合、予防接種法に基く救済(医療費、障害年金等の給付)が受けられます。

 

●最後に

公費で接種できるHPVワクチンは、子宮頸がんの50~70%の原因とされる2種類の高リスク型ヒトパピローマウイルス(16型と18型)の感染に対して予防効果を持つワクチンで、全ての高リスク型ヒトパピローマウイルスの感染を予防できるわけではありません。20歳以上で性交経験のある方は、HPVワクチン接種に加え子宮頸がん検診を2年毎に受けることで、子宮頸がんの前がん病変や早期がんの段階で発見することが可能です。
子宮頸がんの予防には、HPVワクチンによる一次予防と子宮頸がん検診による二次予防の両方が重要です。

 

●最後に

「若い世代の男女が将来の妊娠のための健康管理や生活習慣改善に関心を持つこと」をプレコンセプション・ヘルス・ケアと言いますが、それは「子供をもつかもたないかにかかわらず、すべての男女の健康の保持増進」につながります。HPVワクチンと子宮頸がん検診で予防できる子宮頸がんは、プレコンセプション・ヘルス・ケアの最も重要な対象と言えます。

 

  ドクター