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今回は、「更年期障害(こうねんきしょうがい)」についてのお話です。 「とにかく疲れやすい、やる気が起きない」、「朝方、汗で目が覚めてしまう」、「ほてり、冷え、頭痛、めまいなどで仕事に集中できない」、「些細なことにイライラ、くよくよし、憂うつになる」などの症状に悩まされていませんか?内科、耳鼻科、脳外科、心療内科などを受診してもなかなか症状が改善せず、最後に婦人科で「更年期障害」の診断を受けるケースも少なくありません。貴方も、もしかして「更年期障害」?

どんな病気ですか?

更年期とは、閉経前後の45~55歳の期間をさしますが、その間に卵巣から分泌される女性ホルモン(エストロゲン)が劇的に減少し、やがて閉経を迎えます。女性ホルモンの分泌は、脳から分泌される刺激ホルモンによってコントロールされています。更年期に女性ホルモンが急激に減少すると、脳はそれを察知して過剰な刺激ホルモンを分泌することになり、いわばパニック状態に陥ります。これが自律神経(体温、呼吸、脈拍、精神活動などを調節しています)を乱す原因となり、「のぼせ、ほてり、発汗」を代表とする様々な症状が出現します。このような更年期に見られる症状で、日常生活に影響を与える場合を「更年期障害」と言います。

 

どんな症状がありますか?

「更年期障害」の症状は実に多彩で、約200から300を数えます。典型的な症状には、ほてり、のぼせ、発汗、冷え、動悸・息切れ、めまいなどの「血管運動神経系の障害」、肩こり、腰痛、疲れやすいなどの「運動器系の障害」、頭痛、不眠、イライラ、不安感、物忘れなどの「精神神経系の障害」、などが挙げられます。これらは、主に閉経前後に出現します。閉経後数年を経過してから見られる症状に、外陰部・腟の乾燥感、性交痛、頻尿、残尿感などの「生殖器・泌尿器系の障害」があります。 このような症状の現れ方、度合い、期間は個人によって大きく異なります。それは、「更年期障害」の原因が、単に「女性ホルモンの減少」だけではなく、「日常生活のストレス」、及び「生活習慣・性格」が大きな要因となっているからです。「更年期」の年代は、ご主人の単身赴任や退職、子供の進学や自立、親の介護、親との死別など人生において激動の時代と言えます。そうした生活環境の大きな変化に気力・体力面でついていけない場合、「更年期障害」の症状は強く出現します。

 

どのように診断されますか?

詳細な問診及びホルモン検査で診断されます。冒頭で、『他科を受診したけれど症状の改善を得られず、最後に婦人科で「更年期障害」と診断されるケースも少なくありません。』 と述べましたが、その逆に「更年期障害」と思って婦人科を受診し、他の疾患が見つかることも少なくありません。例えば、頭痛の原因が「高血圧症」、動悸の原因が「不整脈」のこともあります。また、「憂うつ、イライラ、不安感」の症状が強くみられる場合、「更年期障害」ではなく「更年期うつ病」であることも経験します。

 

どのような治療がありますか?

「カウンセリング」、「生活様式の改善」、「漢方療法」、「自律神経調節薬」、「ホルモン補充療法」などがありますが、これらを単独あるいは併用して治療を行います。 まず、患者さんの訴えに耳を傾ける「カウンセリング」から治療は始まります。患者さんの悩みを聞きながら、身体的・精神的症状を把握し、どの様な治療が最適かを診断します。初めて自分のつらい症状を吐露し、これだけで随分楽になる方もいらっしゃいます。禁煙、適度な運動、食生活など「生活様式の改善」も大切です。 「漢方療法」も広く行われておりますが、つらい症状を根本的に改善するといったものではなく緩和させる治療法で、冷え性、頭痛、関節痛などに効果的です。「ホルモン補充療法」との併用にも使われます。また、乳がんや子宮体がんの既往があり「ホルモン補充療法」ができない方にも使用できます。 「ホルモン補充療法」は更年期に急激に減少する女性ホルモン(卵胞ホルモン、黄体ホルモン)を飲み薬、貼り薬、および塗り薬で補充する治療療法です。その効果は、劇的で即効性があります。更に、骨粗しょう症、痴呆、動脈硬化および大腸がんの予防効果、肌の張りや粘膜の潤い効果があります。

 

「ホルモン補充療法」で乳がんが増えると聞いたことがありますが?

1980年代より、「ホルモン補充療法」は閉経後の女性健康維持や改善に有効な治療法とされ、特に動脈硬化の予防や骨粗しょう症の予防・治療に優れた効果があると報告されていました。ところが、2002年、アメリカで行われていた大規模臨床試験(「ホルモン補充療法」、食生活、生活習慣などが、閉経後女性の心筋梗塞、脳卒中、がん、骨粗しょう症などの発症に及ぼす影響を15年に渡って観察するも)の中間報告で、乳がん、心筋梗塞、脳卒中および静脈血栓症が僅かに増加することが発表されました。しかし、この研究には多くの問題点がありました。即ち、平均年齢が63歳と高齢、70%が肥満者、50%が喫煙者、35%が高血圧者というもので、対象となった女性はすでに乳がん、心筋梗塞、脳卒中のハイリスク群でした。 その後、この大規模臨床試験の再解析が行われ、60歳未満、あるいは閉経後10年未満での「ホルモン補充療法」は心筋梗塞のリスクを低下させること、乳がんに対しても5年以内の「ホルモン補充療法」は安全であることが発表されました。今や20人に1人の女性が乳がんに罹る時代です。「ホルモン補充療法」を受ける、受けないにかかわらず、乳がん検診を受けることが大切です。

 

「ホルモン補充療法」を安全に受けることができますか?

現在、日本更年期医学会では「ホルモン補充療法ガイドライン」を作成中ですが、「ホルモン補充療法」を行う際、以下の点が推奨されています。

  • ① ほてり、のぼせ、発汗などの「血管運動神経系の障害」の改善を対象とし、長くとも5年以内の短期間にとどめ、必要最低限の投与量とする。
  • ② 動脈硬化、心筋梗塞、骨粗しょう症の予防・治療目的のみに使用しない。
  • ③ 乳がん、子宮内膜がんなどの既往者及び静脈血栓症の危険性のある女性には使用しない。
  • ④ 定期的に子宮がん及び乳がん検診を受けるよう指導する。
  • ⑤ 治療による利益と不利益を考慮し、患者さんには十分な説明を行う。
高齢者
英語で「更年期」を「メノポーズ」と言いますが、「チェンジ・オブ・ライフ(change of life)」という素敵な表現もあります。日本人女性の平均寿命は86歳と世界一、長い人生の中で「更年期」は女性の人生の折り返し地点と言えます。元気に「更年期」を乗り越え、健康ではつらつとした「老年期」を迎えるためにも、「更年期障害は、仕方が無い…」と諦めないで、婦人科医にご相談下さい。