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『過多月経』は鉄欠乏性貧血の原因になります

今回は、40代女性の代表的な婦人科疾患とそのホルモン療法についてのお話です。  
現代女性は、出産回数の減少により月経回数が100年前の10倍となりました。その結果、月経困難症、子宮内膜症、子宮腺筋症、卵巣癌などの疾患が増加しましたが、40代女性はこれらの疾患の好発年齢にあたります。さらに、女性ホルモンのゆらぎと低下が始まる40代前半は、月経不順、過長月経、過多月経、予期せぬ出血などの月経トラブルも増加します。また、不妊に悩む女性のいる一方で、望まない妊娠は横ばい状態と報告されています。そして、40代後半には女性ホルモンの急激な低下による更年期障害が出現してきます。  
40代女性が、子育て、仕事、親の介護など問題を抱えながら心身ともに健康で充実した生活を送るためには、このような婦人科疾患と上手に付き合っていくことが大切です。

 

☆「過多月経」とは?

月経困難症および子宮内膜症による疼痛の治療目的で用いる低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(以下、LEP)は2008年に導入された保険薬です。LEPの成分は避妊目的で用いる低用量経口避妊薬(ピル)と同一ですが、副作用の軽減目的にエストロゲンの用量を減らした超低用量経口避妊薬や、むくみ、ニキビ、多毛症の改善効果のある第4世代の黄体ホルモンを含むものもあります。
LEPはホルモンを原因とする月経痛を軽減させ、さらに子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫などを原因とする月経痛も軽減させます。また、LEPは子宮内膜症病変の卵巣チョコレート囊胞の縮小効果があり、子宮体癌、卵巣癌および大腸癌の発症リスクを減少させる効果もあります。
一方、女性は40歳を過ぎるとLEP服用による心血管系疾患(心筋梗塞、脳卒中)や静脈血栓症の発生リスクが上昇します。この年代で増加する肥満、高血圧、糖尿病などの生活習慣病は心血管系疾患や静脈血栓症のリスクをさらに高めるので、そのような女性はLEPを服用することはできません。なお、35歳以上の習慣的喫煙者も心筋梗塞および静脈血栓症の発症リスクが上昇するため、LEPを服用することはできません。
しかし、LEPは40代女性の多くが経験する月経困難症、過多月経、月経周期異常、不正出血などの月経トラブルなどに有効です。症例を選びかつ慎重に管理することで、LEPは40代前半女性のQOL(生活の質)を向上させるツールとなります。

 

☆「過多月経」の症状を教えてください

子宮内膜症および子宮腺筋症に伴う疼痛の治療目的で用いる経口黄体ホルモン製剤は、肥満、高血圧、糖尿病、喫煙者にも使用可能な薬剤です。静脈血栓症の発症リスクがなく、LEPを上回る治療効果があるとされています。はじめの数カ月間は月に19日前後の少量の出血を認めますが、次第に減少します。この点を除けば、疼痛軽減効果に対して満足度の高い薬剤と言えます。
現時点で薬価が高額なため、おもにLEPが禁忌の症例に使用されていますが、後発品が発売される予定があり今後の普及が予想されます。

 

☆「過多月経」の主な原因を教えてください

従来は子宮内避妊具として使用されていた子宮内黄体ホルモン放出システム(以下、IUS)が、2014年から月経困難症及び過多月経に対して保険適応となりました。毎日の内服が必要なLEPや経口黄体ホルモン製剤との大きな違いは、IUSを子宮内に装着すると5年間にわたり安定した治療効果が維持されることです。
また、IUS装着中に更年期障害が出現した場合、卵胞ホルモンのみを補充することで、妊娠の心配がないホルモン補充療法に移行が可能です。しかし、10%程度の脱出が報告されていますので、定期的な超音波検査が必要です。

 

☆「過多月経」の治療方法を教えてください

40代後半から出現する更年期障害の治療に用いるホルモン補充療法(以下、HRT)には、更年期症状の緩和の他に、骨折予防、大腸癌リスクの低下、糖・脂質代謝改善、血管機能改善、皮膚委縮予防、性器萎縮症状改善などの副効用があります。
しかし、HRTは乳癌、心筋梗塞、脳卒中の既往者などには使用できません。HRTは更年期女性のQOLの維持・増進に有用ですが、それを適正に行うためには、使用前の問診、使用中の乳癌検診、子宮癌検診、及び健康診断の指導、および生活習慣(食事、喫煙、飲酒、運動など)の改善指導が大切です。

 

40代は女性ホルモンが劇的に変化する10年間です。順調だった月経が不順となり、様々な月経トラブル、婦人科疾患、そして更年期障害が出現します。
今回お話した、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬、経口黄体ホルモン製剤、子宮内黄体ホルモン放出システム、及びホルモン補充療法などのホルモン療法を適切に選択することで、40代女性の健康管理とQOLの向上が可能となり、しいては来るべき老年期への備えとなります。

  ドクター