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性感染症の「梅毒」が急増しています

【初めに】

近年急増傾向にある「梅毒」をご存知でしょうか?梅毒はコロンブスが新大陸から持ち帰ったとされる性感染症ですが、日本では1948年の22万人をピークに治療薬のペニシリンの発見以来激減していました。2012年までは年間の発生数が1000例に満たない希少疾患で、感染者の多くは同性間で性行為を持つ男性でしたが、2013年以降は異性間の感染により男女共に急増しています。特に女性の感染者数は10倍に増加し、その中でも20代女性が突出しています。また、妊娠期の母子感染による新生児の先天梅毒の報告も2倍に増加しています。
梅毒には極めて多彩な症状あり、他の疾患との区別が難しいため、「偽装の達人」という異名を持ちます。しかも、症状が現れたり消えたりを繰り返すため診断の難しい疾患です。

 

●梅毒はどのような感染症ですか?

梅毒は、梅毒トレポネーマと呼ばれる細菌に感染して起こる性感染症です。感染経路となる性的接触は性交だけではなく、オーラルセックスやアナルセックスなども含み、皮膚や粘膜から感染し血行性に全身に広がります。また、妊婦が感染している場合は胎盤を介して母子感染を引き起こし、早産・死産の原因となり、新生児に障害が残ることがあります。 感染を防ぐためには、不特定多数の人とのを性的接触避けることやコンドームの正しい使用が大切です。

 

●梅毒ではどのような症状が現れますか?

梅毒の急増を踏まえ、2018年に日本性感染症学会は「梅毒の診断・治療ガイドライン」を大幅に改定し、簡潔で実用的なものとしました。
そこでは、感染から1年以内で感染力の強い「早期梅毒」と、感染から1年以上経過した感染力は無いとされる「後期梅毒」に分けられました。更に、感染から1か月前後は「第1期梅毒」と呼ばれ、感染部の口唇、口腔咽頭粘膜、陰部・肛門周辺などに、びらん、しこり(初期硬結)、潰瘍(硬性下疳)などが出現し、鼠経リンパ節腫脹も見られます。女性では症状が軽度のことが多く、性器ヘルペスの潰瘍と酷似することに注意が必要です。これらの症状は治療をしなくても数週間で消えてしまいます。

感染から1~3か月を「第2期梅毒」と呼び、全身に広がった梅毒トレポネーマによる、皮膚の赤い発疹(バラ疹)や性器や肛門に平らなできもの(扁平コンジローマ)が出現します。これらの症状も治療をしなくても数週間で消えてしまいます。このように症状が現れたり消えたりを繰り返すために診断は難しく、患者が受診の機会を逸した場合には感染を広げてしまうことになります。

 

 

●梅毒の検査を教えて下さい

梅毒の診断は、血液を採取して梅毒抗体検査を行います。梅毒抗体検査には、梅毒に特異的(感染の証拠となる)な「梅毒トレポネーマ抗体」と、梅毒に特異的ではない梅毒の活動性の指標(病気の進行の程度や治療効果判定となる)である「非トレポネーマ脂質抗体」があります。どちらの検査も感染から4週間以上経過しないと陽性反応が出ないため、症状が現れてすぐに検査をしても陰性(偽陰性)のことがあります。その場合、4週間後に再検査を行います。なお、「非トレポネーマ脂質抗体」、「梅毒トレポネーマ抗体」の順で陽性化します。医療機関(産婦人科、泌尿器科、皮膚科など)で検査を受ける事ができます。 

 

●梅毒はどのように診断されますか?

「梅毒トレポネーマ抗体」、「非トレポネーマ脂質抗体」の両方が陽性の場合、梅毒と診断します。両方が陰性の場合、感染していないと診断しますが、感染から4週間以内の場合は再検査を行います。「梅毒トレポネーマ抗体」のみ陽性の場合、陳旧性梅毒(過去に感染し治療後に治癒)と診断します。治療歴のない場合、初期の梅毒および治療が必要な潜伏梅毒の可能性があります。「非トレポネーマ脂質抗体」のみ陽性の場合、ごく初期の早期梅毒または生物学的偽陽性(梅毒以外の疾患で陽性となること)と診断します。生物学的偽陽性となるのは、膠原病、慢性肝疾患、結核、HIV感染症などの疾患、妊娠や高齢者及びワクチン接種などがあります。また、梅毒とHIV感染症の重複感染が10~20%にみられるため、患者さんの同意のもとにHIV検査(保険適応)を行うことが推奨されています。

 

●梅毒の治療を教えてください

ペニシリン系抗菌剤を内服します。2021年にはペニシリン系抗菌剤の持続性筋注製剤が承認されました。なお、ペニシリン系抗菌剤にアレルギーがある場合、マクロライド系及びテトラサイクリン系抗菌剤を内服します。

 

●梅毒の治癒判定を教えてください

「非トレポネーマ脂質抗体」の治療前の値が2分の1から4分の1に減少していれば治癒と判定します。検査間隔をあけながら1年間は管理が必要です。なお、6ヶ月以上経過しても減少していない場合、治療が不十分であるか再感染を考え、再治療を行います。

 

●最後に

「若い世代の男女が将来の妊娠のために健康管理や生活習慣改善に関心を持つこと」をプレコンセプション・ヘルス・ケアと言います。近年急増傾向にある梅毒は、4大性感染症(性器クラミジア感染症、淋菌感染症、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ)と同様にプレコンセプション・ヘルス・ケアの重要な疾患と言えます。

  ドクター