Back Number

『過多月経』は鉄欠乏性貧血の原因になります

☆「過多月経」とは?

10代後半から40代前半の女性に好発し、QOL(生活の質)を著しく低下させる「子宮内膜症」が卵巣に発症したものを、「卵巣チョコレート嚢胞」と呼びます。
「卵巣チョコレート嚢胞」の代表的な症状には、「年々ひどくなる月経痛」と「不妊」が挙げられますが、まれに「破裂・感染」や「悪性化」も見られます。少子化、晩婚・晩産化を原因に増加傾向にあり、早期診断と年齢及びライフスタイルを考慮した治療が重要です。
「卵巣チョコレート嚢胞」については6年前にもお話しましたが、その管理と治療法は医学的データの集積、新薬の登場により年々変化しつつあり、再度取り上げることにしました。

 

☆「過多月経」とは?

子宮内膜は子宮の内側にある組織で、女性ホルモンの働きで厚くなり受精卵の着床に備えますが、妊娠が成立しない場合は月経血とともに子宮から排出されます。
「子宮内膜症」とは、この子宮内膜に似た組織が、何故か子宮の内側以外の色々な場所にできて、女性ホルモンの働きで厚くなり(増殖)、出血(剥離)を繰り返す不思議な病気です。これが卵巣の内部に発生したものが「卵巣チョコレート嚢胞」です。
卵巣内では子宮内膜に似た組織から月経毎に出血が起こり、行き場のない出血は貯留して囊胞(ふくろ)を作ります。この出血は時間の経過とともに酸化して茶色で粘性のあるチョコレート様に変化します。これが「卵巣チョコレート嚢胞」です。

 

☆「過多月経」の症状を教えてください

「子宮内膜症」ができる原因は解明されていません。「月経血が腹腔内に逆流する説」と「腹膜が子宮内膜に変化する説」が有名ですが、これらで説明できないケースもあります。
また、子宮内膜症は女性ホルモンの影響を大きく受けており、初経の低年齢化や少子化により月経の回数が増えることが子宮内膜症の増加に関与していると考えられています。
「子宮内膜症」は、初経後の10代から発生する可能性があり、30代の女性をピークに性成熟期の女性の約10%が持っていると推察されています。

 

☆「過多月経」の主な原因を教えてください

代表的な症状には、「疼痛」、「不妊」、「破裂・感染」及び「がん化」があります。約90%に「疼痛」を認め、年々増強する月経痛、下腹部痛、排便時痛、性交時痛などがあります。また、卵子の数の減少と質の低下が早まる可能性があり、挙児希望のある方は早期診断・治療が必要です。不妊になる可能性は約50%とされています。更に、約5%に破裂・感染、約0.7%に卵巣がん発症の報告があります。

 

☆「過多月経」の治療方法を教えてください

「卵巣チョコレート嚢胞」は数センチ以上の大きさがあれば、経膣(直腸)超音波検査で比較的容易に診断が可能です。詳しい問診は重要で、婦人科的診察(内診・直腸診)、腫瘍マーカー検査(CA125)なども行います。特にMRI検査は有用で、術前検査や悪性腫瘍との鑑別に用いられます。

 

☆「過多月経」の治療方法を教えてください

治療法の選択には、「今すぐにでも子供が欲しい、将来は欲しいけど今は仕事をしたい、まだ決めていない、子供は欲しくない…」など、女性一人一人のライフスタイル、年齢、及び「卵巣チョコレート嚢胞」の進行度によって個別的に判断し、「経過観察」、「薬物療法(ホルモン療法)」、「手術療法」から選択します。破裂や感染、がん化の予防を重視する場合には手術療法を選択します。
「卵巣チョコレート嚢胞」からの卵巣がん発生率は、30代では約1%ですが50代で約22%になります。囊胞のサイズからみると、3cm以下では0%ですが10cmでは4.8%になります。このように、年齢が上がるほど、囊胞のサイズが大きくなるほど卵巣がんの発症率は高まります。よって、囊胞サイズが3~4cmから手術適応となり、6cmを超える場合は手術が推奨されます。
薬物療法には、「低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(治療用の低用量ピル)」、「黄体ホルモン経口剤」、「GnRHアゴニスト療法」などがあります。10代後半から30代まではおもに「低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬」を使用します。価格と副作用の観点から使用しやすく、高い疼痛改善効果および「卵巣チョコレート囊胞」の縮小効果を認め、長期間使用できるのが特徴です。40代以降は血栓症のリスクを考慮して「黄体ホルモン経口剤」を選択します。高い治療効果があり閉経までの使用が可能ですが、多少の不正子宮出血を伴います。また、「GnRHアゴニスト療法」は卵胞ホルモン低下による骨量減少などの副作用があるため、長期的な管理には向いていません。
手術療法には、腹腔鏡下手術による「卵巣摘出」、「囊胞摘出」、「囊胞壁焼灼」、「エタノール固定」及び「吸引洗浄」があり、この順に根治性が高く再発率は低くなりますが、卵巣機能及び妊娠率が喪失・低下する危険性は高まります。よって、治療目的(疼痛の緩和、妊娠率改善、悪性化の予防)を明確にして術式を選択することが大切です。術後2年以内に約30%に再発を認めますが、術後すぐに「低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬」使用した場合の再発率は8%にとどまるため、妊娠を希望しない場合は術後の薬物療法は必須と言えます。また、乳がん及び卵巣がんの血縁者のいる方には、「両側卵管卵巣摘出術」が推奨されています。術後は卵巣機能喪失によるホットフラッシュ、骨粗鬆症などの予防を目的に「ホルモン補充療法」を行います。

 

☆「過多月経」の治療方法を教えてください

20代から30代前半で、妊娠を希望して1年未満、「卵巣チョコレート囊胞」が4cm未満の場合、まずは1年をめどに早期の妊娠を目指します。妊娠しない場合、不妊治療を考慮します。また、妊娠を希望して1年が経過し、囊胞が4cm以上の場合、手術を行った後に不妊治療を行い、半年以内の妊娠を目指します。
30代後半から40代では、高度先進医療を含めた不妊治療を優先させます。妊娠に至らない場合や囊胞が増大傾向を示した場合には手術を考慮します。

 

☆「過多月経」の治療方法を教えてください

10代から始まる月経困難症は、将来の子宮内膜症の予備軍であることが解明されおり、すでに子宮内膜症が発症している可能性もあります。月経痛の改善と不妊症の予防のためにも、早い段階からの「低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬」の服用が推奨されています。

  ドクター