「子宮頸がん」は子宮の入り口である子宮頸部できる悪性腫瘍で、30~40歳代に多く、20~30歳代では「乳がん」より高い罹患率(りかんりつ)になっています。毎年1万5000人の女性が「子宮頸がん」と診断され、2500人の尊い命が奪われています。「子宮頸がん」は、ヒトパピローマウイルス(以下、HPV)が子宮頸部に感染することが原因で発症します。HPVは皮膚や粘膜のどこにでもいるウイルスで、100種類以上ありますが、そのうちの15種類ほどが「子宮頸がん」発症に関与し、「発がん性HPV」と呼ばれています。このウイルスは性交渉によって感染しますが、HPV感染は風邪に罹るのと同じような極々ありふれたもので、性病とは根本的に異なります。女性の80%は生涯に一度は「発がん性HPV」に感染しますが、ほとんどは免疫的に排除され、一過性です。しかし、HPVは一度排除されても、何度でも感染する可能性があります。排除されなかったHVPの感染が5~10年間持続すると、「前がん病変」を経て約0.1%が「子宮頸がん」に進展します。
「子宮頸がん」を引起す原因が「発がん性HPV」の感染であると確定され、このウイルスの感染予防及び前がん病変の予防効果がある「子宮頸がん予防ワクチン」(以下、ワクチン)が開発されました。2006年にアメリカ及びEU諸国でワクチンが認可され、今日まで100カ国以上で認可されています。現在、臨床応用されているワクチンには、「発がん性HPV」の16型と18型をターゲットとした2価ワクチンと、性器コンジローマなどの原因となる6型と11型も含む4価ワクチンがあります。
今回、日本で接種が始まったワクチンは、HPVの16型と18型の感染を防ぐもので、「子宮頸がん」の60-70%が予防できると期待されています。しかし、すでにHPVに感染している場合や、前がん病変及び子宮頸がんの治療には用いることはできません。
最も推奨されるワクチン接種の対象は初交前の女児(11~14歳)ですが、性交渉があってもHPVの再感染を予防することができます。日本産婦人科学会では11~45歳までを接種の対象としています。接種回数は、初回接種から1ヵ月後、6ヵ月後の3回必要です。
ワクチンの効果は、接種後最低7年間は維持されます。7年を超えた長期的効果については研究中ですが、理論的には約20年程度効果が持続するとみられています。
また、ワクチン接種後に、疼痛、腫脹、発赤などの局所刺激症状はしばしば認められますが、重篤な副作用の報告は無く、安全なワクチンと考えられています。最初のワクチン接種後に妊娠が判明した場合、以降のワクチン接種は分娩後にすべきとされています。もし、ワクチン接種後に妊娠が判明しても、人工妊娠中絶の必要はありません。なお、授乳中の接種は可能とされています。
ワクチンは任意接種(予防接種法に基づかない接種)のため、自己負担になります。医療機関で異なりますが、3回の接種合計で5万円程度です。オーストラリア、カナダ、アメリカ、EU諸国などでは公費負担制度があり、優先的に接種すべき思春期女子には無料もしくはそれに近い形で公費負担されています。日本でも日本産婦人科学会などが公的支援を訴えています。
日本で接種が始まったワクチンは、HPVの16型と18型の感染を防ぐもので、「子宮頸がん」の60-70%が予防できると期待されていますが、残りのHPV型を原因とする「子宮頸がん」には無効です。また、すでにHPVに感染している場合や、前がん病変及び子宮頸がんの治療には用いることはできません。よって、ワクチン接種後も定期的に子宮頸がん検診を受けることが大切です。
初交前の女児(11~14歳)全員にワクチン接種を行った場合、子宮頸がんの発症及び死亡数を約70%減少すると試算されています。しかし、接種対象年齢でその予防効果は異なり、30歳で約50%、35歳では約40%に低下します。
ワクチンは、「発がん性HPV」の感染を予防することで「子宮頸がん」の70%を予防できると期待されています。また、子宮頸がん検診を定期的に受診することで、前がん病変や初期がんの段階で早期発見することが可能性です。
将来、ワクチンと子宮頸がん検診が普及すれば、「子宮頸がん」の70%をワクチンで予防し、残り30%を検診で予防又は早期発見することが可能です。