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月経以外に性感染症とプレコンセプション・ヘルス・ケア出血性感染症とプレコンセプション・ヘルス・ケアがあったら?

【初めに】

性感染症については、14年前にもこのコラムで取り上げましたが、今回は外来で診断する頻度が高い性感染症の特徴と最近の話題についてお話します。 

 

●婦人科外来で多い性感染症は?

婦人科外来で診断・治療される頻度が高い性感染症には、性器クラミジア感染症、淋菌感染症、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、及び梅毒などがあります。
これらの性感染症の罹患率は、年代別では20歳代前半が高く、おおむね横ばいですが、梅毒は2010年以降増加傾向にあります。
その他、膣トリコモナス症もしばしば見受けますが、性行為以外の感染経路があることから、性交経験のない女性や幼児の感染も報告されています。

 

●それぞれの性感染症の症状と診断は?

性器クラミジア感染症及び淋菌感染症の症状は、帯下の増加・悪臭、不正出血、下腹部痛などですが、女性が罹患した場合は50%以上が無症状のため、見逃しを防ぐには積極的な検査が必要です。
性器ヘルペスは、初感染では強い疼痛を伴う外陰部の水泡・潰瘍を認めるため、肉眼による診断が可能ですが、症状が軽い場合には抗原検査や抗体検査を併用します。
ベーチェット病との鑑別が難しい症例は、皮膚科との連携が必要です。 尖圭コンジローマは、外陰部、膣、子宮頸部などにカリフラワー状の疣贅(イボ)を認めるため、肉眼による診断が可能ですが、病巣が小さい場合は生検による確定診断が必要なことがあります。
梅毒は、外陰部、口唇、肛門などの感染部位にしこりや潰瘍が出現しますが、すぐに消失し、潜伏期を経て全身に皮疹などの多彩な症状を認めます。確定診断には、感染後3週以降の梅毒抗体検査が必要です。
いずれの性感染症においても、パートナーの検査と治療を泌尿器科と連携しながら同時に行い、その間の性生活指導も必要です。 

 

●性感染症の最近の話題は?

性器クラミジア感染症の約10%に淋菌感染症を合併するため、両方を同時に診断可能な核酸増幅法(PCR法)が推奨されています。また、近年はクラミジア及び淋菌の咽頭感染が増えていますが、多くは無症状のため放置されやすく、パートナーへの感染源になり続けることがあります。咽頭感染は難治性との報告があり、性器感染と同時に治癒判定を行う必要があります。淋菌感染症では抗菌薬の耐性化(薬が効かない)が問題となっており、治療後は他の感染症と同様、治癒判定が必要です。なお、PCR法で治癒判定を行う場合、治療後3週間以上あけて行います。
再発を繰り返す性器ヘルペスには、抗ウイルス薬を毎日継続的に服用することで再発リスクを減少させる、再発抑制療法を行います。
尖圭コンジローマは、性感染症で唯一予防ワクチンがある疾患です。子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)の4価及び9価ワクチンについては、尖圭コンジローマの原因であるHPV6型及び11型の感染予防効果が証明されています。令和4年4月から、HPVワクチン接種の積極的勧奨が9年振りに再開されます。HPVワクチンの接種率が回復することで、子宮頸がんのみならず、尖圭コンジローマの減少も期待されます。 

 

●プレコンセプション・ヘルス・ケアという言葉をご存じですか?

これは文字通り「妊娠前の健康管理」ですが、「若い世代の男女が将来の妊娠のための健康管理や生活習慣改善に関心を持つこと」を目的に、米国で提唱されました。そして、それは「子供をもつかもたないかにかかわらず、すべての男女の健康の保持増進」につながります。

 

●性感染症の治療目的はプレコンセプション・ヘルス・ケアです!

性器クラミジア感染症及び淋菌感染症を未治療のまま長期間放置すると、子宮頸管炎、卵管炎、骨盤腹膜炎、肝周囲炎の原因となり、卵管不妊、異所性妊娠(卵管妊娠)、妊婦では産道感染による新生児肺炎や結膜炎などを引き起こす可能性があります。また、性器ヘルペス、尖圭コンジローマにも分娩時の産道感染を認め、梅毒には胎盤を介した胎児感染のリスクがあります。これらの性感染症を早期に診断し、早期に治療することは、女性のプレコンセプション・ヘルス・ケアにおいて重要と言えます。

 

●最後に

女性の性感染症の特徴は、20代前半の罹患率が高く、将来の不妊、卵管妊娠、及び母子感染のリスクとなるため、プレコンセプション・ヘルス・ケアの観点から適切な診断・治療・管理が重要です。

 

  ドクター