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:「子宮頸がん予防ワクチン」をご存知ですか?

以前、性成熟期女性のQOL(生活の質)を低下させる婦人科疾患の一つ、「子宮内膜症」についてお話しましたが、今回はその「子宮内膜症」が卵巣に発生した病変、「卵巣チョコレート嚢胞」についてのお話しです。
「卵巣チョコレート嚢胞」の代表的な症状には、「年々強まる月経痛」と「不妊」が挙げられますが、まれに「破裂」や「卵巣がん合併」も見られます。「卵巣チョコレート嚢胞」は日常診療でしばしば遭遇する良性疾患ですが、「再発性の慢性疼痛疾患」という特徴があり、年齢とライフスタイルに合った治療法の選択が大切です。

☆「子宮頸がん」について教えてください。

子宮内膜は子宮の内側にある組織で、女性ホルモンの影響で厚くなり受精卵の着床に備えますが、妊娠が成立しない場合は月経血とともに子宮から排出されます。
「子宮内膜症」とは、この子宮内膜に似た組織が、何故か子宮の内側以外の色々な場所にできて、女性ホルモンの影響で厚くなり(増殖)、出血(剥離)を繰り返す不思議な病気です。主に、骨盤内の腹膜や、子宮・卵巣・ダグラス窩(注1)・大腸などの表面、卵巣の内部、子宮の筋肉層、まれに膣壁、臍、肺にできることもあります。子宮の筋層内に発生したものを「子宮腺筋症」、卵巣の内部に発生したものを「卵巣チョコレート嚢胞」と呼びます。
卵巣内で増殖した子宮内膜からは月経ごとに出血が起こり、出血は卵巣に貯留して囊胞(ふくろ)を形成します。出血は時間の経過とともに茶褐色で粘性のあるチョコレート様に変化します。これが「卵巣チョコレート嚢胞」です。子宮内膜症性卵巣囊胞ともいいます。

  • (注1) ダグラス窩:子宮と直腸の間の腹膜のくぼみ。女性にしかない。腹腔で最も低い位置で、血液が溜まりやすく、子宮内膜症の好発部位。

 

☆「子宮頸がん予防ワクチン」について教えて下さい。

「子宮内膜症」ができる原因は解明されていません。「月経血が腹腔内に逆流する説」と「腹膜が子宮内膜に変化する説」が有名ですが、これらで説明できないケースもあります。 また、「子宮内膜症」は女性ホルモンの影響を大きく受けており、初経の低年齢化や少子化により月経の回数が増えることが「子宮内膜症」の増加に関与していると考えられています。「子宮内膜症」は、初経後の10代から発生する可能性があり、30代をピークに性成熟期の女性の約10%が持っていると推察されています。

 

☆	ワクチンの接種を受ければ、子宮頸がん検診を受けなくてもいいのですか?

代表的な症状は、「疼痛」と「不妊」が挙げられます。「疼痛」には、年々増強する月経痛、排便時痛、性交時痛、骨盤痛及び腰痛などが挙げられます。また、卵巣内の血流減少、周囲の組織との癒着及び炎症などが原因で卵胞の発育及び排卵障害が生じるため、「卵巣チョコレート嚢胞」を持つ50%の方に不妊を認めると報告されています。まれに、約5%に破裂が見られ、約1%に卵巣がんの合併が報告されています。

 

ワクチンの予防効果は、年代によって違うと聞きましたが本当ですか?

嚢胞の大きさが数センチを超えると、経膣(直腸)超音波検査で比較的容易に診断が可能です。もちろん、詳しい問診は重要で、婦人科的診察(内診・直腸診)、腫瘍マーカー検査(CA125、CA19-9)、MRI検査なども行います。特にMRI検査は有用で、術前検査や悪性腫瘍との鑑別に用いられます。

 

ワクチンの予防効果は、年代によって違うと聞きましたが本当ですか?

治療法には薬物療法と手術療法がありますが、女性一人一人のライフスタイル、挙児希望の有無、年齢及び「卵巣チョコレート嚢胞」の大きさなどを総合的に診断して選択します。
薬物療法には、「低用量ピル」、「プロゲスチン経口剤」、「GnRHa療法」などがあります。「現時点で妊娠を望まない、4cm以下の卵巣チョコレート嚢胞を認める女性」には「低用量ピル」が最適です。他のホルモン剤と比べて副作用が少なく、長期間使用できるのが特徴です。一方、「喫煙をしている女性、肥満・高血圧・糖尿病などの合併症のある女性」には「プロゲスチン経口剤」が適応となります。疼痛改善率78%と高い臨床効果を認めますが、不正出血やほてりの副作用を伴います。また、「GnRHa療法」は、閉経近い方に使用して手術を回避する「逃げ込み療法」や、手術前の補助療法としての使用が一般的です。
手術には「腹腔鏡下手術」と「開腹手術」がありますが、術後妊娠率、手術成績、術後回復などいずれにおいても優れている「腹腔鏡下手術」が現在の主流となっています。術式としては、卵巣を温存する場合は「囊胞核出術」及び「囊胞内面の蒸散・焼灼術」を選択します。40歳以上で挙児希望のない場合は、卵巣・卵管も含めて摘出する「付属器摘出術」も適応となります。
具体的には、「妊娠を望んで1~2年経過し、3~4cm以上の卵巣チョコレート嚢胞を認める女性」の場合、「腹腔鏡下手術」の適応ですが、年齢及び子宮内膜症の進行度により不妊治療を優先することもあります。また、術後5年間で約30%の症例に「卵巣チョコレート嚢胞」が再発する為、術後早期の妊娠、再発予防の薬物療法を含めた術後管理が大切です。
卵巣がんの合併は年齢とともに増加し、嚢胞径4cmから認め、10cmをこえると急増すると報告されています。「40歳以上で4cmを超える卵巣チョコレート嚢胞を認める女性」は、「腹腔鏡下手術」の適応とされています。しかし、30歳代でも嚢胞径4cmから卵巣がん合併の報告があり、MRIや腫瘍マーカーなどの診断を考慮して手術の適応を決めることになります。

産婦人科医
「卵巣チョコレート嚢胞」は、「月経痛」や「不妊」といった性成熟期女性のQOL(生活の質)を低下させる婦人科疾患で、「再発性の慢性疼痛疾患」という特徴があります。まれに「破裂」や「卵巣がん合併」も見られ、年齢とライフスタイルに合った管理、治療の選択が大切です。