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『過多月経』は鉄欠乏性貧血の原因になります

☆初めに

月経血が多くても仕方がないと諦めてはいませんか?「過多月経(かたげっけい)」(月経血が異常に多いこと)は他人と比べることができないので、自己判断が難しく見逃していることが多い疾患です。例えば、「月経が8日以上持続すると過長月経」、「月経が3カ月以上ないと続発性無月経」と診断されますが、「月経血が多いから過多月経」とは診断できません。
患者さんが顔面蒼白の場合、「過多月経」が原因の鉄欠乏性貧血を疑います。あなたは色白?それとも貧血?

 

☆「過多月経」とは?

月経血量は1回の月経あたり20~140mLですが、これを上回る場合は月経血が異常に多いとされ、「過多月経」と診断します。しかし、実際に出血量を測定して診断することはなく、凝血塊(レバー状の出血)の有無や、ナプキンの取り換え頻度なども正確な出血量を反映しません。客観的な指標としては、血液検査で鉄欠乏性貧血があり、その原因が月経によると判断できれば「過多月経」と診断されます。

 

☆「過多月経」の症状を教えてください

「過多月経」では、月経血の中にレバー状の血のかたまりが2日以上見られ、日中でも夜用ナプキンの使用が必要となり、その交換頻度が増します。その結果、鉄欠乏性貧血を認めることが多く、動悸、息切れ、倦怠感などの症状を自覚し、日常生活に支障を来します。しかし、貧血が徐々に進行し慢性化していると、自覚症状に乏しい場合もあります。顔面蒼白で血液検査でも鉄欠乏性貧血を認めるのに、患者さんは驚くほど元気なことをしばしば経験します。

 

☆「過多月経」の主な原因を教えてください

「過多月経」の主な原因には、①婦人科器質性疾患、②婦人科機能性疾患、及び③内科的疾患があります。
婦人科器質性疾患としては、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープなどの良性疾患が代表的で、30代の性成熟期に好発します。また、50代以降では子宮体がんの可能性もあり、除外診断が大切です。器質性疾患は、超音波検査及びMRI検査で容易に診断が可能です。
婦人科機能性疾患としては、女性ホルモンの分泌異常による無排卵周期症と黄体機能不全が挙げられます。これらは、排卵が起こらない、排卵しても黄体ホルモンの分泌が少ないことが原因で、思春期や更年期の女性に多く見られます。機能性疾患は、基礎体温の測定、ホルモン検査および超音波検査により診断されますが、原因が特定できないことも少なくありません。
内科的疾患としては、止血・凝固機能の異常をきたす特発性血小板減少性紫斑病、白血病のほか、肝機能障害などが挙げられますが、頻度は多くありません。

 

☆「過多月経」の治療方法を教えてください

治療には,薬物療法と手術療法がありますが、年齢、挙児希望の有無、子宮温存希望の有無、器質的疾患の有無などを考慮して適切な治療を選択します。  
内科的疾患が原因の場合、原疾患の治療を優先します。
無排卵周期症などの女性ホルモンの分泌異常が原因の場合、貧血治療を行いながら、黄体ホルモン製剤、卵胞ホルモン・黄体ホルモン配合剤、子宮内黄体ホルモン放出システム(LNG-IUS)等のホルモン剤及び抗線溶薬による薬物療法を行います。薬物療法が無効または困難な場合は、子宮内膜掻爬術を選択しますが、妊孕性温存が不要の場合は子宮全摘または子宮内膜アブレーションなどの手術療法を行います。
子宮筋腫などの器質的疾患が原因の場合、手術療法を考慮しますが、薬物療法と貧血治療で管理可能なこともあります。例えば、ホルモン検査などで近い将来に閉経が予想される更年期女性の場合、GnRHアナログ製剤による「閉経にげ込み療法」で、手術を回避することも可能です。

 

☆最後に

「過多月経」は、月経を有する女性に広くみられますが、自己判断が困難なため、健康診断で鉄欠乏性貧血を指摘されて初めて婦人科を受診されることが多い疾患です。その原因は、無排卵周期症や子宮筋腫といった良性疾患が主ですが、思春期では成長期の貧血、性成熟期では不妊症が問題となり、更年期では悪性疾患の可能性もあります。いずれにせよ、「過多月経は女性の生活の質を低下させる疾患」と言えます

  ドクター