「プロラクチン」とは脳の下垂体から分泌されるホルモンで、乳腺を刺激して乳汁を分泌する働きがあります。赤ちゃんがお母さんの母乳を吸う刺激で「プロラクチン」の分泌は亢進し、血液中の濃度は上昇します。「プロラクチン」がたくさん分泌されている授乳期間中は排卵が抑制されて無月経となりますが、授乳が終われば「プロラクチン」の血液中の濃度は正常化し、排卵も再開して妊娠可能となります。
妊娠中、授乳中以外の時期にこのホルモンが過剰に分泌され、血液中の濃度が異常に上昇した疾患を「高プロラクチン血症」と言います。20~30代の女性に多く、頻度は0.4%と報告されています。
頻度の多い疾患として、①プロラクチン産生下垂体腺腫(35%)②視床下部機能障害(30%)③薬剤性(10%)④原発性甲状腺機能低下症(5%)などがあります。
「高プロラクチン血症」の約70%に乳汁漏出と月経異常を認めます。排卵障害や黄体機能不全により、不妊症の原因にもなります。男性の「高プロラクチン血症」では、乳汁の分泌や性欲低下が現れることがあります。
「プロラクチン産生下垂体腺腫」の場合、頭痛、視野障害などの腫瘍による圧迫症状を認めることもあります。
問診では、乳汁漏出の有無、月経の状況(周期、期間、経血量)、体重変化、薬物服用の有無、寒がり・皮膚乾燥、頭痛、視野障害などを確認します。
寒がり・皮膚乾燥などを認め「原発性甲状腺機能低下症」を疑う場合、甲状腺機能検査を行います。抗精神病薬・抗うつ薬、抗潰瘍薬・制吐薬、循環器薬・血圧降下薬、ホルモン剤などを服用している場合、「薬剤性高プロラクチン血症」を疑います。
問診で「高プロラクチン血症」を疑う場合、血中プロラクチン濃度を測定します。血中プロラクチンの正常値は測定法によって異なりますが、30ng/mLを超えるものを「高プロラクチン血症」と診断します。ただし、血中プロラクチンは変動しやすく、夜間、食後および排卵期周辺で高くなるため、月経7日以内、食事前の午前中の検査が推奨されています。また、乳汁漏出、月経異常、不妊などの症状を認めるのに血中プロラクチン値が正常のものを「潜在性高プロラクチン血症」と言います。この場合、夜間などに血中プロラクチンが上昇していると考えられ、負荷試験(TRH試験)で診断を行うこともあります。一方、症状が無い「高プロラクチン血症」を「マクロプロラクチン血症」と言い、治療を必要としません。「高プロラクチン血症」の15~25%に見られます。
血中プロラクチン値が100ng/mLを超える場合、「プロラクチン産生下垂体腺腫」を疑い、脳神経外科にMRI検査を依頼します。
治療の対象は、月経異常、不妊症、視野障害を伴う下垂体腺腫などで、月経周期が正常で軽度の乳汁分泌を認める場合、経過観察することもあります。閉経に伴いプロラクチンは正常化することが多いので、定期的な血液検査が必要です。
治療方針は、年齢、挙児希望の有無によって異なりなます。
「薬剤性高プロラクチン血症」の場合、薬剤の中止、変更を処方医と相談しますが、どちらの治療を優先するか考慮する必要があります。
「原発性甲状腺機能低下症」の場合、甲状腺ホルモン補充によりプロラクチンは正常化し、卵巣機能は回復します。
「視床下部機能障害」の場合、ドパミン作動薬(カベルゴリン等)でプロラクチンは正常化します。
「プロラクチン産生下垂体腺腫」の場合、ドパミン作動薬による薬物療法と外科療法がありますが、薬物療法が第一選択となります。治療は最低1年必要ですが、いつまで治療を継続するかについて結論は得られていません。また、視野障害や薬剤無効例では外科療法の適応となります。手術が不能または無効例には放射線療法が選択されることもあります。
妊娠が判明した時は薬剤治療を中止とします。しかし、妊娠中に視野障害など下垂体腫瘍の増大を認める場合、薬剤治療継続もあり得ます。